ときめきトゥナイト 二次創作

マリッジブルー 描き直しバージョン

「もう、勝手にしろっ」

「勝手にするもんっ」

結婚披露宴の座席決めの時だった。

招待状の返信はほとんど全員出席で来ていたが、

一人だけ返信がまだ来てなかった。

「神谷はもう来ねえな」

「そうね。残念だけど。神谷さんの気持ちもわかるし」

「じゃあ、神谷の席は削るとして…」
そう言った矢先…

「待って。もしかして、まだ迷ってるんじゃないかな。来てくれるかも。だからぎりぎりまで席とっておきたい。」

「あいつは来ねえよ。お前もさっき気持ちわかるって言ったろ」

「そうだけど、ひょっとして気が変わるかもしれないし…一縷の望みというか…うまく言えないけど、そのまま席空けておきたい…」

「いや、とにかく削る。代わりに他の人に声かけてみるよ」

「待って。真壁くん冷たすぎるよ。私の気持ちわかってくれないし、神谷さんに対してだって…」蘭世は声を荒らげた。

俊も蘭世の「冷たい」の一言でついかっとなってしまい…

「悪かったな冷たくて。もう勝手にしろ!」

となったのだ。

1週間が過ぎた。

蘭世は暖炉の火の灯る部屋のベッドに座り、メールの文字を打っては取り消し…を繰り返していた。そのうち俊の方から電話がかかってきた。

「この前は悪かったな」

「わたしこそ、ごめんなさい」

「今度の日曜空いてるか? 家で見せたいものがあるんだ」

「うん、日曜日は大丈夫」

(口を聞いてくれてよかった… でも見せたいものってなんだろう)

日曜日。緑色のハイネックのニットワンピースに身を包んだ蘭世は俊の部屋のソファーに座っていた。
最近買った二人掛けのソファー。時々泊まりに来るようになった蘭世の生活の小物も少しづつ増えていた。

「コーヒーでいいか?」

俊はお揃いのマグカップにコーヒーをいれてテーブルに置いた。
そして本棚から一冊のアルバムを取り出す。

「これなんだけど」

「アルバム?」

「小学生の頃のな」

蘭世はページをめくった。

「うわあ、かわいい」

そこには、蘭世には懐かしい俊の子供の頃の写真が並んでいた。

入学式などの節目の写真や母とのツーショット、俊の普段の何気ない一コマの写真の合間に、時々曜子の顔が出てくる。

「神谷さん、かわいい」

「神谷はいつも俺の近くにいたよ。正直うっとうしい時もあったけど、なんだかんだ言っていつも俺を応援してくれてたんだ」

「うん」

さらにページをめくっていくと、別の女の子の顔があった。頭の良さそうな明るい感じの子だった。

「この子は?」

「ああ、同じクラスの市田。優等生で神谷といつも成績張り合ってた。でも途中で病気になって学校休みがちになって」

「そう…」

「でさ、市田が学校休んだ日は、神谷がプリントとか宿題を家まで届けてたんだ。家に近いやつは他にもいたんだけど、自分だったら宿題のわからないところも教えてあげられるからって…」

「そうなんだ、 優しい…」蘭世はアルバムに目を落としたまま言った。

俊は話を続けた。学年の終わり頃その子が亡くなったこと。曜子はその後ショックで元気がなかったこと。そのうちその子の分もと、もっと真剣に勉強に取り組むようになったこと。

「真壁くん、私の知らない神谷さんのことたくさん知ってるのよね」

「付き合い長いからな。あいつは、優しいよ。優しいし強い」

「うん。私も時々、優しさ感じてたの」

「しかもあいつ結構友達多いんだ」

「わかる。神谷さんがいったん友達になったら、いろんなこと相談できる心強い友達になりそう」

「だから俺たちのこともいつかわかってくれるよ。もう少し時間がかかると思うけどな。神谷にはそんなに気を使うことないって」

「そうね。私少し焦ってたのかも。祝福してくれる、その証が欲しくて結婚式に出席して欲しいって。でも今の話を聞いていつかきっと、って確信がもてた。今日はありがとう。アルバム見せてくれてよかった」

蘭世の心のモヤモヤは消えた。いつもの優しい柔らかな笑顔。蘭世の表情に俊も心が軽くなった。そして…

「アルバム見せたかったのもあるけどさ」

軽く咳払いをし、少し顔を赤くして言った。

「一週間口聞いてなかっただろ。そろそろ俺の方向いてほしいんだけど」

「うふふ、またそのセリフ。忘れてないよ。大好き真壁くん」

俊は蘭世の柔らかい髪に左手を差し入れた。

そして右手で蘭世の体を抱き寄せ、唇を重ねた。

外は雪が降り始めていた。

「あっ、雪」

唇を離した二人は窓の方へ行った。ふわふわと舞う真っ白な雪。その景色は軽くなった二人の心をさらに浮き立たせた。

「でも、ちょっと妬けちゃうな。私の知らない神谷さんと真壁くんの思い出」

ぷくっと怒ったような茶目っ気と笑みの混じった表情で言った。

「ばか、妬く必要なんてないだろ。俺と結婚するのは江藤なんだから」

俊は蘭世の頭にポンと手を乗せ、その手を頬の方にずらすと顔を近づけ…再び熱いキスをした。

曇った窓ガラスに映る二人のシルエットは、そのまま横になり、俊の背中だけになった…

プロポーズの後、めぐる季節の中で喧嘩仲直りを繰り返し絆を深めていた。嬉し涙の止まらない結婚式の春はもうすぐそこまで来ている。

終わり

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